コーチの基準を維持するためのコンピテンシーの役割

コーチングは、個々の能力を引き出し、組織全体のパフォーマンスを向上させるための有効な手段の一つです。コーチングを受けることで「自己肯定感が高まり、目標達成した」という体験や「組織内で社員が自分で考え、行動が促進されるようになった」という声が少しずつ聞こえてくるようになりました。コーチングを活用した1on1を社内外で実施する場面が増えてきています。

ビジネス界では、コーチングの重要性が認識され、その市場規模は急速に拡大しています。例えば、日本のコーチング市場は、2015年の約50億円から2019年には約300億円に成長しました。また、アメリカのビジネスコーチング市場は、2019年に約150億ドル(約1兆6千億円)に達しました。

市場が成長している業界でもあり、多くの団体がコーチを養成するプログラムを提供しています。一方で、コーチ自身の成長や、コーチの判断基準をどこに置くのかという業界課題も浮き彫りになってきています。
本記事では、コーチの基準を維持するための一つの軸として「コンピテンシー」について解説していきます

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コンピテンシーとは

コンピテンシーとは、特定の業務を遂行するための総合的な能力や行動特性を指します。これはスキル、知識、態度、価値観などの総合的な能力や、業務ごとに異なる専門知識を有するブログラミングや医療、データー解析などの技術的なスキルだけでなく、コミュニケーション能力や問題解決能力、リーダーシップなどのソフトスキルも含まれます。

「コンピテンシー」という言葉は、1970年代後半にハーバード大学の心理学教授 デイビット・マクレランド(McClelland, D.C.)の達成欲求(the need for achievement)の研究から派生しました。高い業績を達成する人の特徴について研究され、心理学や教育分野の展開を経て、企業での育成や評価にも採用されるようになりました。人事評価のカテゴリーでは、今や当たり前になりつつあります。

コーチング業界においても明確なコンピテンシーが存在します。コーチ養成スクールとして業界をけん引してきた国際コーチング連盟(以下ICF)が、設立当初からさまざまな団体のメンバーと協力して、業界で基準となるコンピテンシーを開発しています。これらのコンピテンシーは、コーチングを専門職として展開していく人にとって、自身の成長の拠り所として理解を深めておくことが大切です。

国際基準のコンピテンシーの役割

ICFでは、コーチングを「思考を刺激し続ける創造的なプロセスを通して、クライアントが自身の可能性を公私において最大化させるように、コーチとクライアントのパートナー関係を築くこと」と定義しています。

その定義に基づき、コーチングを実践する人の望ましい行動特性をまとめたコンピテンシーは、2019年に新たに改定されました。

改定されたコンピテンシーは、実践されているコーチングを2年間緻密に分析し、再構成されました。世界中の1,300人以上のコーチから収集されたエビデンスに基づいて、多様なコーチングの分野、トレーニング歴、コーチングスタイル、および経験レベルが反映されています。

再構成されたものは基本的には刷新されたわけではなく、いくつかの要素とテーマが結合したものになりました。大分類としては、以下の4つのテーマに分類されています。

コア・コンピテンシー(国際コーチング連盟が定める核となる能力要件)モデル

  1. 基盤を整える(Foundation)
    (クライアントの自己認識、とりまく環境、経験、価値観、信念に慎重に配慮している/ クライアント、スポンサー、および関連する利害関係者に対して適切かつ敬意を表す言葉を使用している 等)
    コーチングを行う前提として、コーチ自身について必要な要素が提示されています。また、倫理的なガイドラインや専門的水準についても触れています。
  2. 関係性をともに築く(Co-Creating the Relationship)
    (クライアントとコーチが共通認識を持つために、クライアントとパートナー関係を築いている/自分の不完全さをみせるなどして開放性と透明性を示している 等)
    クライアントと共に取り組む必要がある要素について提示しています。コーチングを進める上での信頼関係の構築、ニーズと目的、目標の共有、パートナーシップの確立について触れています。
  3. 効果的なコミュニケーション(Communicating Effectively)
    (クライアントが伝えている以上の何かがあることを認識し、問いかけている/気づきまたは洞察を引き起こすひとつの方法として、クライアントに挑戦を促している 等)
    コーチングを実践する際に取り組む必要のある要素について提示しています。クライアントに良い影響をもたらす効果的なコミュニケーション、クライアントの視点、感情の理解、クライアントが語る言葉の背景に何があるのかを観察と洞察することについて触れています。
  4. 学習と成長を育む(Cultivating Learning and Growth)
    (クライアントの自律性を承認し、支援している/どうやって前進するのかを、使える情報、支援、障壁の可能性なども含めて、クライアントが考えるようにいざなっている 等)
    コーチングの目的に関する要素が提示されています。コーチが重視すべき、クライアントの成長を促進するために必要なフォーカスポイントについて触れています。

4分野8カテゴリー62項目で表現が定義され、より有力で包括的なコーチングの基準として機能することが期待されています。

改定されたコンピテンシーの内容で興味深いのは、最初にコーチ自身の「基盤を整備する」ことが明示されている点です。スクールやコーチング研修では、スキルやテクニックが重要視されがちですが、コーチングで一番大切なのは、関わる側であるコーチ自身のマインドや態度にあるということです。

実際、生活不安を抱えたり、自身の内面のコントロールができていないと、クライアントの言葉に反応することができず、良質なセッションを提供することができません。

そして、2番目の項目もセッションを良いものにするためには不可欠です。「関係性をともに築く」ための合意形成がおざなりになっていないかに注意が必要です。

巷で増えているコーチング関連のクレームを聞くと、このコンピテンシーが不足していると思われる事例が増えています。業界の水準を維持または向上させるためには、これらの能力に焦点を当てて、コーチ自身も在り方や能力を軌道修正させていくことが不可欠です。

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抽象的なコンピテンシーを具体的な実践への応用するには?

コンピテンシーの定義は、異なる背景を持つコーチが活用できるように抽象度が高くなっています。実践において、これらのコンピテンシーが思い浮かぶ場面は多々ありますが、さまざまな場面で立ち返るために、意図的に抽象的な表現が使われているのでしょう。

抽象化された文言を実際の現場で活かすことには、困難なこともあります。コンピテンシーを理解するための勉強会は、コーチ養成スクールでのプログラムや自主的な勉強会で理解を深める会が頻繁に行われています。

コンピテンシーを体現していくには、文章を単に読み解くだけでは足りません。コーチングの構造、人の心理や身体の機能をどれだけ深く理解できているか、そして、クライアントに直接フィードバックをもらうことであったり、誰かにセッションをチェックしてもらったりすることも必要になります。

また、コンピテンシーは単なるコーチの行動チェックリストにならないように、注意深く扱うことも重要です。「できているか」とジャッジすることではなく、コーチ自身の成長に役立てていくことが大切です。

さらに、実践においてコーチの成長やアプローチの技術をさらに高めていくという視点に立ったとき、ICFのコンピテンシーだけでは不十分な側面もあります。実践の質を高めていくには、ICFの内容を基本軸としながらも独自の解釈を持ちながら、上手に応用していくことが求められます

たとえば「効果的なセッションを展開することができているか」「主体的な行動を継続的に支援できているか」「安心して話してもらえているか」など、コーチが無意識に行っている行動をさらに具体的に示し、より良いセッションにしていくための判断基準の項目を作成し、振り返る機会を持つことが大切です。より実践に重要な要素を加味し、バージョンアップし続けていきましょう。

クライアントの成長を支えるコーチ自身も常にチャレンジし、公私ともに自身の可能性を最大化し続ける姿勢が大切です。コーチングマインドを体現しているからこそ、クライアントにより良い関わりができるといえるでしょう。

エッセンシャルコーチングクラスについて

当スクールのコンテンツは、講師陣が15年以上の月日をかけて実践で成果を出してきた内容を加え、独自プログラムを提供しています。

<手に入る三つの成果>

1.なりたい自分になる方法
自分の内側に発生する感覚を捉え、知覚を言語化していくエクササイズを多数用意しています。クラスで学びあうプロセスを経て、なりたい自分になるための手法を習得してもらいます。

2.継続的な成長を実現する習慣
コーチングを習得する過程を経て、進化し続ける習慣を醸成していきます。7カ月の学習期間は、対面学習だけでなく、オンラインでの振り返り、毎月コンスタントに出される課題に取り組むことで、自身をバージョンアップし続けることが身につきます。

3.継続的な成長を支えるチーム
私たちの学習コミュニティは、関係そのものを変化させることにフォーカスしていくため、協力、共感、協調、協働が自然と育まれます。そのため、共に成長し続けるチーム感が高まります。効果的なチームワークは、個々の能力を超えて目標を達成するための力強い味方となるでしょう。クラス修了しても成長し続ける関わりが手に入ります。

執筆:鈴木敦子