コーチング初心者やビジネスパーソンが知っておきたい「スキーマ」。心理学に基づき、思考のクセを理解して自己理解・行動変容を促すポイントを解説します。
1.はじめに
コーチング初心者の方やビジネスパーソンが「コーチング」を学ぶ上で、見逃せない概念の一つがスキーマです。スキーマは心理学・認知心理学の分野で重要視されています。「情報や知識を整理する枠組み」のことであり、私たちの思考のクセやマインドセットに深く関わっています。
スキーマは、日常生活の中で無自覚・無意識に機能しています。スキーマを理解すると、コーチングセッションの質が向上し、クライアント(受け手)の行動変容や自己理解を加速できる可能性があります。本記事では、コーチング初心者が知っておきたいスキーマの基本から、コーチングにどのように活かせるかを解説します。
2.スキーマとは何か? – 心理学・認知心理学の視点
2.1 スキーマの起源と歴史
スキーマという概念は、心理学や認知心理学の分野をはじめ、データベース設計やAIなど、多岐にわたって使用されています。心理学では、1930年代にイギリスの心理学者バートレットによって、人がある物語を記憶し再生するとき、時間の経過とともに単純化や文化的背景の影響を受ける現象を説明するために導入されました。その後、スイスの心理学者ピアジェが子どもの認知発達を説明する上で、同化と調節を繰り返す動的な概念としてスキーマを用いたことで、一層注目を集めました。
2.2 スキーマが及ぼす影響
スキーマは、私たちが新しい情報を理解し、記憶し、活用する際の“土台”として機能します。たとえば、「レストランに入る」というシチュエーションでは、自然にメニューを見る、注文する、食事をする、支払いをする…といった一連の流れをスムーズに行えるのは、「レストラン」というスキーマが頭の中に存在しているからです。
このようにスキーマは、認知負荷を減らして意思決定を素早く行える利点がありますが、場合によっては思考のクセや偏見(バイアス)につながるリスクも含んでいます。
3.コーチング実践者がスキーマを理解する重要性と理由
3.1 思考のクセとマインドセットの関係
コーチングでは、行動や結果に大きく影響を与える無意識の思考パターンや思い込みが多く見られます。こうした思い込みを形成しているのが、まさにスキーマです。
「私は上司に認められないから、もう頑張っても無駄だ」と語られる表現の中にスキーマが存在します。「私は上司に認められない」「だから」「頑張っても無駄」という思い込みの連なりです。このようなネガティブなスキーマがあると、せっかくのチャンスにも消極的になり、成長の機会を逃す可能性があります。また「うまくいかないのは他人のせい」というスキーマがあると、自己理解や成長のためのフィードバックを受け取れないかもしれません。
コーチングでは、こうしたスキーマの存在に気づき、必要に応じて柔軟に書き換えを促すことが、マインドセットの変化や行動変容を生む大きなカギとなります。
3.2 自己理解と行動変容への影響
スキーマは、自己理解を深めるうえでも非常に重要です。自己理解が進むほど、「自分はなぜこのタイミングでこう感じたのか?」「なぜこの行動を取ったのか?」といったことを、客観的に見つめられるようになります。
さらに、ビジネスの現場では、従来のやり方に固執するスキーマがあると、プロジェクトやチーム運営の課題解決に必要な新しいアイデアを受け入れにくくなります。クライアントが自身の可能性を最大化するためには、不健全な結果につながるスキーマを柔軟に変化できるようになることが大切です。コーチはスキーマに働きかけ、思考や行動パターンの柔軟性を高めるサポートを行う必要があります。
4.スキーマの種類と具体例
4.1 パーソンスキーマ
他者の性格や行動に関する知識のまとまりです。たとえば、「営業マンは外交的」「技術者は内向的」といったステレオタイプも、ある意味パーソンスキーマの一種といえます。こうしたスキーマが強くなると、柔軟に人を理解することが難しくなりがちです。
4.2 自己スキーマ
自分自身に関する知識のまとまりです。「真面目だけれど人前で話すのが苦手」「周囲から認められるリーダーシップがある」などと捉えるのは自己スキーマの例です。自己スキーマがポジティブ方向に強すぎると慢心につながり、ネガティブ方向に強すぎると自己否定感が強まるリスクがあります。
4.3 役割スキーマ
社会的役割に関する知識のまとまりです。たとえば、「上司だから部下を厳しく指導すべき」「管理職は常に完璧でなければならない」といった思い込みが強いと、適度な失敗や学習の余地を見落とす原因になるかもしれません。
4.4 イベントスキーマ
誕生日パーティーや結婚式など、特定のイベントに関する知識のまとまりです。ビジネスシーンでは、プレゼンや会議などにおける進行手順や期待される行動が、イベントスキーマとして定着している場合があります。
4.5 言語に関するスキーマ
言語表現や言葉選びにまつわるスキーマです。英語でも日本語でも、日常的に使う言葉や表現が思考にも影響を与えます。「どうせやっても無理」という言葉が思考を狭めるケースもあれば、「まずは挑戦してみよう」が新たなアイデアを生み出すきっかけになる場合もあります。言語核(Language Core)を見直すことで、クライアントの思考や意欲をプラスに転換するヒントが得られます。
5.コーチング初心者でもできる!スキーマを活用したアプローチ
5.1 スキーマの棚卸し
まずはクライアントの中にあるスキーマを棚卸ししてみましょう。質問を通じて「どんな思い込みがあるか」「どんな固定観念を持っているか」を洗い出すのです。
- 「うまくいっていないと感じる理由は何ですか?」
- 「その考え方は、いつからそう思うようになりましたか?」
- 「周囲はあなたの行動をどう捉えていると感じますか?」
これらの質問によって、クライアントが無自覚に抱いているパターンや“言語化されていない前提”が表面化しやすくなります。
5.2 スキーマの同化と調節
心理学者のピアジェが提唱した同化と調節というプロセスは、コーチングにおけるスキーマ理解にも応用できます。
- 同化: 新しい情報を既存のスキーマに当てはめることで、自己の世界観を再確認する。
- 調節: 既存のスキーマでは説明できない情報に直面したとき、スキーマを修正し、新しい枠組みを取り入れる。
コーチングでは、クライアントが現状をうまく説明できない状況や、新たな視点を得て戸惑っている場面こそが大きな成長のチャンスです。スキーマを柔軟にアップデートできるようサポートしましょう。
5.3 マインドセットの変化を促す質問例
- 「今までとは異なるアプローチをするなら、どんな方法が考えられますか?」
- 「その思い込みはどのような状況下で生まれましたか? 今も有効だと思いますか?」
- 「もしその思い込みが本当は違うとしたら、あなたの行動や結果はどう変わるでしょう?」
これらの質問でクライアントのマインドセットに揺さぶりをかけると、新たな視点を形成し、行動変容のきっかけをつくることができます。
6.実践事例 – スキーマを活用したコーチングプロセス
6.1 セッション対応例
クライアントの悩み: プロジェクトリーダーに任命されたが、自分にリーダーシップがあると思えず自信が持てない
セッションの対応事例
①パーソンスキーマ・自己スキーマの洗い出し
- 「自分のどんな点がリーダーシップに欠けると感じますか?」
- 「以前に成功体験はありませんでしたか?」
②スキーマの同化・調節を促す
- 「成功体験があるのに、今それをどう活かしていますか?」
- 「もしあなたが持っている“リーダーシップが無い”という思い込みが誤りだとしたら?」
③新しいマインドセットの構築
- 「自分の長所や強みを活かすにはどんな行動が必要ですか?」
- 「次の1週間、具体的に何を試してみますか?」
このようにクライアントが抱えているスキーマを顕在化し、必要に応じて書き換えることで、自信回復や行動変容を促せます。
6.2 ビジネス現場における活用シーン
- チームビルディング: 役割スキーマを柔軟化することで、メンバーそれぞれが持つ先入観を崩し、協力体制を築きやすくする。
- 営業活動: パーソンスキーマを改善して顧客の反応をより客観的に捉え、柔軟にコミュニケーションスタイルを変化させられる。
- リーダーシップ開発: 自己スキーマを更新し、「自分にはリーダーとしての資質がある」と再認識して、積極的に行動を起こす動機づけにつなげる。
7.スキーマを活かすためのポイントまとめ
7.1 スキーマを固定化しない柔軟性
スキーマは私たちの日常をスムーズに進めるために大変便利ですが、過度に固定化すると思考が硬直してしまう恐れがあります。コーチングでは常に「本当にそうなのか?」と問いかけ、必要に応じてスキーマを見直す姿勢が大切です。
7.2 コーチとクライアントの相互理解
スキーマの書き換えや調節には、コーチとクライアントの信頼関係が欠かせません。クライアントが安心して自分の思考や感情をさらけ出せる場をつくることで、深い自己理解や行動変容が起こりやすくなります。
7.3 フィードバックと再評価の重要性
一度セッションで気づきを得ただけでは、スキーマが長期的に変化するとは限りません。新しいマインドセットを維持するためには、定期的なフィードバックと再評価が不可欠です。クライアントが実際に行動し、結果を振り返る過程でさらなる修正を重ねることで、真の変化が生まれます。
8. まとめ
「スキーマ」という枠組みは、コーチング初心者からビジネスパーソン、管理職に至るまで、幅広い方が知っておくと非常に役立つ概念です。心理学や認知心理学の視点からスキーマを理解することで、私たちは自分や周囲を新しい目で見られるようになります。
思考のクセや固定観念を和らげることで、自己理解が深まり、行動変容が促進されやすくなるのです。特にビジネスの現場では、停滞していた組織が新たなアイデアやコラボレーションを生むケースも多々あります。
ぜひ、コーチングの学習やセッションで、クライアントや自身のスキーマに目を向けてみてください。
執筆:鈴木敦子 |
次のステップ – コーチングスクールでの学び
より専門的にコーチングスキルを身につけたい方は、コーチングスクールで体系的に学ぶのがおすすめです。スクールでは、スキーマ理論だけでなく、マインドセットやコミュニケーション技術など、幅広い知識をまとめて学べます。
「自分の思い込みに気づく」「相手の思い込みを問いかける」といった体験的な学習は、座学だけでは得られない大きな効果があります。
コーチングスクールに通うメリット
- 体系的な知識とスキルが身につく
- プロからのフィードバックで成長を加速
- 同じ志を持つ仲間との情報交換や実践練習
将来的にプロコーチとして活動したい方はもちろん、ビジネススキルを高めたい管理職や個人事業主の方にも、コーチングスクールでの学びは大きく役立ちます。
エッセンシャルコーチングクラスについて
当スクールのコンテンツは、講師陣が15年以上の実践で成果を出し続けた内容を盛り込んでいます。実際の現場で、活用独自プログラムを提供しています。
<手に入る三つの成果>
1.なりたい自分になる方法
自分の内側に発生する感覚を捉え、言語化していくエクササイズを多数用意しています。クラスで学びあうプロセスを経て、なりたい自分になるための手法を習得してもらいます。
2.継続的な成長を実現する習慣
コーチングを習得する過程を経て、進化し続ける習慣を醸成していきます。7カ月の学習期間は、対面学習だけでなく、オンラインでの振り返りがあります。そして毎月の課題に取り組むことで、自身をバージョンアップし続けることができます。
3.継続的な成長を支えるチーム
私たちの学習コミュニティは、関係そのものを変化させることにフォーカスしています。そのため、協力、共感、協調、協働が自然と育まれます。共に成長し続けるチーム感を体感してしていただきたいと考えています。。
効果的なチームワークは、個々の能力を超えて目標を達成する傾向があります。それは、力強い味方となるでしょう。クラス修了しても成長し続ける関わりが手に入ります。