「やりたいこと」を口にしながら行動に移せない、あるいは実際にやっていても閉塞感が拭えないのはなぜ? 本当の“好き”を隠す“偽の感情”を見抜き、ビジョン設定を成功に導くためのコーチング視点を解説します。
1.「好き」と感情のメカニズム
「やりたいこと」を語るとき、多くの人は“本当の好き”と“得意だから何となくやりやすいもの”を混同しがちです。実際には“好き”という感情はコントロールしづらく、強烈なワクワクと同時に大きな恐怖を伴うことがあります。
1-1.本当の好き
- 強い関心や情熱を感じるがゆえに、「失敗したらどうしよう」という不安や恐怖がセットになる
- いわゆる“得意”とは必ずしも一致しない
1-2.得意だけれど好きとは限らないこと
- 感情が比較的動きにくいため、安心感はあるが本音は満たされない
- 業務上のスキルや周囲からの期待に応えるために取り組んでいる
もし自分が「なぜかわからないけどモヤモヤする原因」を抱えているなら、“好き”と“得意”の区別がついていない可能性があります。コーチングの現場では、この“得意と好きの違い”を明確にすることで、本音を見失う原因を取り除いていくことが重要です。
2.コーチングのビジョン設定で陥りがちなトラップ
ビジョン設定の際に「コーチと一緒に描いた目標を実現しよう」と決意したのに、なぜか行動に移せない、あるいは行動しても閉塞感ばかりを感じる――そんな状態に陥る人は少なくありません。クライアント自身も気づいていない“偽の感情”が大きく影響しているケースがあります。
2-1.行動に移せないクライアントの事例
例えば、あるビジネスパーソンが「新規事業を立ち上げたい」と強く語りながらも、いつまで経っても企画書すら手をつけないというケースがあります。本人は「やりたい!」と言うのにまったく動かないのです。よくよく話を聞いてみると、次のような“偽の感情”が潜んでいることがわかります。
- 周囲の期待に応えたいだけ
「周囲から“やれる人”と評価されているから、新しいチャレンジをアピールしておきたい」という思い - 本当は強い恐怖心がある
「失敗したらどうしよう」「誰にも認められなかったら怖い」という不安を認めたくない - 得意なことで評価されたい
「得意な領域であればミスをしにくいため、自尊心が傷つかない」という防衛本能
このように、表向きは「やりたい」と言っていても、実際には“行動に移せない”ほどの恐怖や周囲への期待が優先され、本音とのギャップが生まれているのです。
2-2. やりたいことをやっているのに閉塞感を感じるケース
逆に、実際に“やりたいことをやっているはずなのに、なぜか閉塞感がある”と訴えるクライアントもいます。例えば、独立を目指して起業し、一見すると生き生き働いているように見えるのに、本人は「何だかモチベーションが湧かない」「常に焦燥感がある」とこぼします。
- “偽のやりたい”かもしれない
本音では別のことに興味を持っているのに、「周囲から褒められる」「以前の上司を見返したい」といった動機がベースになり、本当の好きとはズレている - 本音と建前のギャップ
社会的に“立派”と思われるプランを推し進めることで、自分を肯定しているが、実は心から楽しいわけではない - “間違ったビジョン設定”による摩擦
本人の自己理解が浅いままビジョンを立てると、達成できても満足度が低く、長期的な閉塞感につながりがち
これらはクライアント自身が気づきにくい“トラップ”でもあります。なぜなら自分で「これが正しい」「これがやりたい」と思い込もうとしている分、コーチとの対話の中でも表面化しにくいからです。
3.実際に取り組む際のポイント
偽の感情に気づき、本当の「やりたいこと」を明確にしていくためには、クライアントがまず“自分の弱さ”や“恐怖”を認める必要があります。コーチはこの過程でクライアントを責めるのではなく、安心して語れる環境をつくり、一貫して伴走していくことが重要です。
3-1.まずは恐怖を超えるための自己理解
・恐怖を自然なものとして受け入れる
「本当にやりたい」ほど大きな恐怖が伴うのは当然です。失敗や拒否を想像すると怖くなるのは、誰しもが持つ自然な防衛反応。コーチはこれを否定せず、当たり前の感情として受け入れられるよう働きかけます。
・自己受容の段階を飛ばさない
「怖がっている状態を責める」「早く行動するように煽る」といったアプローチは逆効果です。クライアントが自己変容プロセスを円滑に進めるためには、まず“今は動けない自分”を認める自己受容が欠かせません。
3-2.本音と建前を仕分ける質問の例
コーチングでは、クライアントの“本音”にアプローチし、“建前”に気づいてもらう問いかけが効果的です。例えば、次のような質問が挙げられます。
1.「もし周囲の評価がまったく気にならないとしたら、やっぱりそれをやりたいですか?」
周囲の目線や期待を取り払ったときの“本当の気持ち”に焦点を当てる
2.「その“やりたい”を実現したとき、どんな感情になると想像しますか?」
ワクワクや恐怖など、具体的な感情に注目することで、偽の安心感か本音なのかを見極める
3.「それをやらずにいると、どんなモヤモヤする原因が残りそうですか?」
行動しないことで生まれる不満や後悔をあぶり出し、本音を浮き彫りにする
このような問いかけによってクライアントの本音を引き出し、間違ったビジョン設定を修正する手がかりを得られます。
3-3.小さな行動を設定してモヤモヤを減らす
- 安全な範囲で“恐怖を超える”体験を積む
いきなり大きな挑戦をすると、失敗に対する恐怖が増幅されやすくなります。まずは“できそうで少し怖い”くらいの小さなステップを設定します。 - フィードバックを丁寧に行う
「やってみたらどんな感情が湧いたか」「思わぬ障害はなかったか」などを振り返り、行動と感情の関係をコーチと一緒に確認します。ここで得られた気づきが、自己理解を深める材料になります。 - 継続的な伴走で“偽の感情”に戻らないようにする
焦りや不安が強いと、再び偽の感情で自分を守ろうとする可能性があります。コーチが定期的に対話を重ねることで、クライアントが“本当の好き”を見失わないようサポートできます。新しい変化への挑戦を習慣化していくことも可能です。
4.まとめ
偽の感情とは、「本来の欲求や怖れを抑圧し、表面的な安心感や得意領域で自分を誤魔化している状態」です。これに陥ると、「やりたいのに行動に移せない」「やりたいことをやっているはずなのに閉塞感が消えない」といった問題が生じやすくなります。
コーチングの実践では、クライアントが持つ“本音と建前”を仕分け、“恐怖を超える”自己変容プロセスを促すことが大切です。そのためには、自己理解や自己受容を丁寧に行いながら、少しずつ行動を積み重ねていくアプローチが不可欠と言えます。
本記事では「偽の感情」「やりたいこと」「行動に移せない」「閉塞感」「恐怖を超える」といったキーワードを軸に、コーチングの実践視点から“間違ったビジョン設定”を修正するポイントを解説しました。本音にアクセスできないときこそ、モヤモヤする原因を丁寧に探り、自己理解・自己受容のプロセスを進めることが重要です。小さな一歩を重ねながら“本当の好き”を見出し、自由な選択と行動へとつなげていきましょう。
執筆:鈴木敦子
コーチングスクールで学ぶメリット
もしあなたが「行動に移せない理由を知りたい」「本当の好きと得意を区別して自己理解を深めたい」と考えているなら、プロのコーチングを体系的に学ぶ価値は十分にあります。コーチングスクールでは、
- 効果的な質問のスキル
- 安心感を生み出す関係構築の方法
- 自己変容プロセスを進めるための理論と実践
など、実践的かつ具体的なスキルセットを習得できます。
自分自身がクライアントにもなり、偽の感情や本音を探るトレーニングをすることで、クライアントをサポートする力が飛躍的に高まるでしょう。
エッセンシャルコーチングクラスについて
当スクールのコンテンツは、講師陣が15年以上の実践で成果を出し続けた内容を盛り込んでいます。実際の現場で、活用独自プログラムを提供しています。
<手に入る三つの成果>
1.なりたい自分になる方法
自分の内側に発生する感覚を捉え、言語化していくエクササイズを多数用意しています。クラスで学びあうプロセスを経て、なりたい自分になるための手法を習得してもらいます。
2.継続的な成長を実現する習慣
コーチングを習得する過程を経て、進化し続ける習慣を醸成していきます。7カ月の学習期間は、対面学習だけでなく、オンラインでの振り返りがあります。そして毎月の課題に取り組むことで、自身をバージョンアップし続けることができます。
3.継続的な成長を支えるチーム
私たちの学習コミュニティは、関係そのものを変化させることにフォーカスしています。そのため、協力、共感、協調、協働が自然と育まれます。共に成長し続けるチーム感を体感してしていただきたいと考えています。。
効果的なチームワークは、個々の能力を超えて目標を達成する傾向があります。それは、力強い味方となるでしょう。クラス修了しても成長し続ける関わりが手に入ります。