無意識に起こる心のはたらき「防衛機制」について解説していきます

人が話す言葉には、常に何らかの意図と目的が存在します。言葉は、私たちの状況、状態、感情、思考を表現するツールです。ですが、必ずしも伝えたい全てのことを完全に表現できているわけではありません。その言葉の背景にある心の動きに関心を持つことは、相手を深く理解するための重要なステップです。

心の動きを理解しようとするとき、そこには、自分でも気づけていない心理の作用が発生しています。そのひとつが「防衛機制」です。

人には、自己を守る無意識の機能があり、日常起こるものごとを無意識に判断して反応を起こしています。これは無意識のプロセスなので、自分自身でコントロールすることができません。現在の状況に適応できているときは問題ありませんが、無意識の反応によって意図せずに起きている反応は、コーチングで扱われるテーマにも影響を与えています。

では、「防衛機制」を解説していきましょう。

防衛機制とは

防衛機制とは、心理的なストレスや不安から自己を守るための無意識の心のはたらきです。これは、私たちが困難な状況や脅威に直面したときに、心理的な安定を保つための一連のプロセスを指します。オーストリアの精神科医フロイト(1856年-1936年)の精神分析理論に由来し、フロイトの娘(アンナ・フロイト)によってリスト化されました。

現代では、この防衛機制の考え方は、フロイトが初めて提唱したときの神経症や精神病の症例だけでなく、より広範な状況に適用されています。つまり、日常生活の中で遭遇する様々なストレスや問題に対処するための心理作用で、誰にでも起こりうるものと理解されています。

防衛機制のパターン

防衛機制は、さまざまな形を取ります。スクールでは、20種類のパターンを扱いますが、ここでは代表的なもの、抑圧、投影、合理化をご紹介します。

抑圧

抑圧とは、不快な体験や感情、考えを意識から遠ざけ、無意識の領域に押し込む働きのことを指します。出来事そのものを意識から排除しているため、自分自身では気づくことが難しいのです。この現象は、自分自身が自分に対して我慢を強いている状態を示し、軽度の場合には感情の葛藤が生じます。しかし、その感情の葛藤を放置し続けると、心の安定を保つために無意識が働き始め、感情の表現や感覚が鈍くなる可能性があります。

具体的な事例としては、特定のエピソードの記憶はないものの、特定の場所や対象に近づくと嫌悪感が湧くという状況が挙げられます。また、抑圧は特定のエピソードに関することだけに働くのではなく、すべての感情や感覚にまでその作用の影響が及んでいきます。例えば、本人は楽しいとか嬉しいと感じているのに、周囲の人に感情が認知されにくいことや、自分自身の感情が分からないといったことがあります。さらに、重度の状態になると、原因はわからないが行動できない、鬱や引きこもりなど、社会生活に適応する上での問題が生じることがあります。

本人が楽しいと表現しているのに、まったく楽しそうには見えないという事例は、私自身のエピソードです。仕事でチームメンバーとイベントを企画した際に、「楽しそうにみえない」とメンバーにもらったフィードバックから自分の状態を知ることができました。自分の内面の感覚と外にみえているものにギャップがある。周囲には、何を考えているのかわからない人という認知が広がっていました。

発達過程のどこかのタイミングで自分を押し込めてしまったのか。その後、認知行動の学びを介して自己理解が出来ましたが、抑圧は感情や感覚を鈍化させてしまいます。人生を楽しむという文脈においてはとてももったいない心理作用でもあります。

無意識に抑え込んでいるものがないかを見極めて、抑圧を解消する。公私ともに可能性を最大化させていくためには不可欠の視点です。

投影

投影とは、自分自身が受け入れることが難しい感情や感覚、衝動を他者に映し出し、それを捉える心の働きを指します。

具体的な事例としては、自分自身の劣等感を他人に投影する現象があります。自分が劣等性を感じているとき、他人の中に同じような側面を見つけて嫌悪感を抱くことがあります。また、仕事に没頭しすぎて家族との時間を十分に持てないとき、親としての役割を全うしていないという自己評価が働き、罪悪感を引き起こすことがあります。このような状況で投影が働くと、子供が寂しがっている、家族が怒っているといった感情を他者に投影し、問題をより複雑にしてしまうことがあります。

さらに、投影の例としては、自分が他人に対して怒りを感じているとき、その怒りを他人が自分に向けていると感じることもあります。これは、自分の感情を他人に投影し、自分が他人から攻撃されていると感じることで、自分の怒りを正当化する一例です。

感情や感覚を表現する言葉を良く聞き取り、何をきっかけに生じているのかを見極めていきましょう。セッションでも相手の言葉を鵜吞みにせずに丁寧に展開していきたいポイントです。

合理化

合理化とは、受け入れがたい現象に対するストレスを軽くするために、起こった事象に対して自身が納得できる適切な理由を作り出す心の働きです。

具体的な例としては、自分にとって手が届かない目標を「不当なものだ」とか「自分には合わない」と自分にとって受け入れやすい理由づけをする。また、手に入らない高価なものを「そんなに価値のあるものではない」と自分に言い聞かせる、といった行動が考えられます。

私に最近起きた合理化の事例では、自分が欲してもいないものに働いていました。情報の接触回数が多く、また親しい友人の好意的なコメントに反応し、欲してもいないものが自分にとって重要なものに思えてくるという現象です。自分にとってメリットがあるかのような理由がどんどんと思い浮かんできました。我に返って、自問自答しましたが、自分の内面に振り回されてしまうことは、多くの人にも起きています。

合理化は、たくさんのパターンがあり、その一つに反動形成というものもあります。これは、手に入らない好きなものに対して、その感情を嫌いという反対の感情に変えてしまう心の働きです。好意を持っている相手に意地悪な言動やふるまいをしてしまうケースです。裏腹な態度をとってしまうこと、身に覚えありませんか。

行動する、あるいは、行動しない理由の合理化には要注意です!無意識の心理に影響を受けないように定期的なセッションで整理していきましょう。

防衛機制は万能ではない

相反する現象や心の葛藤をどれだけ維持できるかは人それぞれです。ストレスを緩和するために対象から遠ざかり、自分を守る働きはとても大切です。ですが、本来望む方向へ行動していきたいと思ったとき、一時の防衛機制の作用は、マイナスになることもあります。

長期的に見ると、問題を直接解決することなく避ける傾向があるため、問題が悪化する可能性があります。さらに、防衛機制が過度に働くと、現実を歪めてしまうデメリットも存在します。

また、防衛機制は無意識に発生するため、自分でも気づくことが難しいという点が課題となります。

コーチとしての役割と注意点

コーチの役割としては、中立的な視点から相手の心理的背景を理解し、偏ったラベリングを控えることが求められます。ですが、相手も気づくことが出来ていない無意識の反応を見極めていくことは、効果的なセッションをする上でも大切です。目指す目標を達成するために、無意識の防衛反応のパターンを把握し、それをコントロールできるようにサポートしていきましょう。

また、相手だけでなくコーチ自身にも防衛機制が働いていることを忘れてはいけません。コーチ自身の感情や感覚は、相手に大きな影響を与えてしまいます。コーチ自らも常に自身の内面に関心を持ち、意識と無意識に葛藤が生じていないか、さまざまな事象に対する反応のパターンを知っておくことが大切です。

良いセッションを提供するために、専門家としての心理面と知識の研鑽を積んでいきましょう。

参考文献

フロイト, S. (1920). “Beyond the Pleasure Principle”. The Standard Edition of the Complete Psychological Works of Sigmund Freud, Volume XVIII.
フロイト, A. (1936). “The Ego and the Mechanisms of Defense”. The Writings of Anna Freud.

執筆::鈴木敦子

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当スクールのコンテンツは、講師陣が15年以上の月日をかけて実践で成果を出してきた内容を加え、独自プログラムを提供しています。

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2.継続的な成長を実現する習慣
コーチングを習得する過程を経て、進化し続ける習慣を醸成していきます。7カ月の学習期間は、対面学習だけでなく、オンラインでの振り返り、毎月コンスタントに出される課題に取り組むことで、自身をバージョンアップし続けることが身につきます。

3.継続的な成長を支えるチーム
私たちの学習コミュニティは、関係そのものを変化させることにフォーカスしていくため、協力、共感、協調、協働が自然と育まれます。そのため、共に成長し続けるチーム感が高まります。効果的なチームワークは、個々の能力を超えて目標を達成するための力強い味方となるでしょう。クラス修了しても成長し続ける関わりが手に入ります。