コーチングの起源と変遷:目標達成と成長を促進するアプローチ

昨今「コーチング」は、個人やチームの成長、パフォーマンス向上を促進するアプローチとして広まっています。ですが、さまざまな場面で「コーチング」という言葉があふれ、よくわからないという方も多いのではないでしょうか。本記事では、コーチングの起源や歴史を紐解きながら、業界の変遷を解説していきます。「コーチング」とは何かに興味がある方は必見です。

「コーチング」の語源と由来

「コーチング」は、個人やチームの成長やパフォーマンス向上を促進するアプローチの一つであるという認識が広まっています。この言葉の語源は、四輪馬車が初めて造られたハンガリーの町「Kocs」に由来しているとされていますが、詳しい歴史背景は不明です。一般的には、馬車を意味する言葉から派生して「大切な物を送り届ける」という意味で使われるようになり、スポーツの指導者の意味で「コーチ」という言葉が普及したといわれています。

「コーチング」という表現でのアプローチは比較的新しく、具体的な歴史は詳しくわかっていません。しかし、「コーチング」は目標達成や個人成長をサポートする手法として広く受け入れられています。

コーチングの起源と普及

コーチングの起源を調べる過程で多く名前が出てくるのは、テニスコーチのティモシー・ガルウェイです。彼は「あらゆるスポーツは、目の前の敵に勝つアウターゲームと、自身の内側に生じる衝動や葛藤と向き合うインナーゲームの二つの要素がある」として、1972年に『インナーゲーム』を出版しました。著書には、人が生まれながらに備わっている能力を明らかにし、それを探求し続けていくことがインナーゲームの究極のテーマであると記されています。当時、経験や知識を“教える”ことが指導とされていた時代に、相手の内面に働きかける技術は、スポーツ領域だけでなく、仕事や人生をテーマにした人の関りにおいても画期的な視点として注目されました。

また、コーチングの初期の人物としては、フットボールコーチのルー・タイスの存在もあります。彼は高校のフットボールコーチとしての経験を活かし、20年以上にわたって企業、学校、社会福祉施設、ソーシャル・ワーカー、刑務所の受刑者やスタッフに対してトレーニングを提供してきました。日本でもTPIEプログラム、認知科学コーチングなどの名称でそのプログラムが広まっています。

「コーチ」は、教師や指導者として、指導対象となる者に関わるという認識があったのは、1900年代の論文や書籍からも伺えます。ビジネス領域においては、アメリカの企業で給与体系が職務給から技能級に変わり、管理職層にコーチングのスキルが求められるなどの背景をきっかけに急激に広まっていきました。1985年にはトム・ピーターズが著書『エクセレント・リーダー』で「上司は部下に対して、教師・マネージャー・コーチの役割を果たさなければならない」と記しています。このように、「コーチ」は指導する人を表し、「コーチング」は対象となる人が達成したい目標にはやく到達できるように指導する手法の一つとしてアメリカで確立されました。

トマス・レナードとコーチングの確立

コーチ養成スクールの立役者といえば、トマス・レナードの名前があがります。1980年代初頭、後にコーチングの基礎を築くトマス・レナードは「ランドマーク・エデュケーション」という自己啓発の教育プログラムを提供する組織で働いていました。レナードはクライアントが自分自身を向上させるための心理学やコーチングの手法を用いたサポートをこの時期に試みています。そして、1988年に「デザイン・ユア・ライフ」というトレーニングを開始しました。

コーチングの普及と発展

ここからは、年表形式でコーチングの普及と発展について紹介します。レナードは、トレーニング「デザイン・ユア・ライフ」の開設の翌年に新たなコースを設立します。

1989年トマス・レナードが新しいコース「カレッジ・フォー・ライフプランニング」を設立。
1992年トマス・レナードがコーチ・ユー(コーチ大学)を設立。
1992年レナードが開設した第1回目のコースを受講していたローラ・ウィットワースがCTI(コーチング・トレーニング・インスティチュート)を設立。
1995年トマス・レナードが国際コーチ連盟(ICF)を設立。
大企業(例:IBM)がコーチングを導入し始める。
1997年国際コーチ連盟(ICF)とパーソナル・アンド・プロフェッショナル・アソシエーション(PPCA)が合併。
2001年トマス・レナードがコーチヴィルを設立。
2007年国際コーチ連盟(ICF)が現在の形になる。

年表を見ると、トマス・レナードはコーチ業界の設立に影響を与えながら、さまざまな模索をしていたことがわかります。コーチの「思想」や「役割」だけではなく、より良く生きるためのトレーニング」が大切であると考え、伴走するコーチの育成・コンテンツの展開に精力的に活動していました。一つの団体だけでなく、次々と新しく競争団体を設立したことがとても興味深く、いくつもの団体が同時期に立ち上がることで、社会の注目が一気に集まったとも考えられます。トマス・レナードの業界への貢献は、計り知れません。

また、トマス・レナードが働いていた「ランドマーク・エデュケーション」の教育プログラムには、エサレン研究所の影響があるとも言われています。エサレン研究所は、西洋、東洋問わず人間性回復を目的としたさまざまなワークショップを展開するために設立され、現在も活動を続けています。

エサレン研究所には、ティモシー・ガルウェイ、人間性心理学のアブラハム・マズロー、クライアント中心療法のカール・ロジャーズ、行動主義心理学のB・F・スキナー、ゲシュタルト療法やNLPに影響を与えたフリッツ・パールズ、家族療法のヴァージニア・サティア、サイバネティックスのグレゴリー・ベイトソン、神話学者のジョセフ・キャンベルなどが参画していたと『コーチングのすべて』(ジョセフ・オコナー著)に記されています。

日本におけるコーチングの歴史と現状

最後に、日本におけるコーチングの歴史をみていきましょう。

日本では、1997年にコーチ・トゥエンティワン(現:株式会社コーチエィ)がコーチ・ユーとのライセンス契約により設立されました。同年にはCTIジャパンも設立されています。また、昨今ではAI研究から派生した認知科学を源流においた理論や、発達理論、インテグラル理論、ポジティブ心理学などさまざまな理論を背景にした独自プログラムを展開している組織や団体も多く存在しています。

日本におけるコーチングの歴史はまだ浅く、心理学、認知科学、神経科学、生理学、認知科学など多様な知識とコーチング要素が結びつき、それぞれに異なる解釈が存在します。また、ベースにしている理論の違いだけでなく、「コーチング」という言葉の意味合いがさまざまで、わかりにくくなっている現状もあります。組織や団体ごとに、コーチングをトレーニング方法として呼んでいることもあれば、コミュニケーション能力として、あるいはマネージメントスキルとして、さらには研修コンテンツとして用いられていることもあります。

とくに、1日や単発で行われる企業の集合研修では、組織内での円滑なコミュニケーションの課題を解決させるためのスキルとして、いくつかの技法が抽出され紹介されています。こういったスキル重視のエクササイズでは、本質的な習得までは至らず、本来のコーチとしての在り方や関係性の意識が大きく欠落してしまっています。

まとめ:コーチングの背景を理解し、上手に活用しましょう

冒頭でも触れましたが、日本では昨今「コーチング」という言葉がさまざまな場面であふれ、よくわからないものという印象が蔓延しています。これから「コーチングを学びたい」「コーチとして活躍したい」あるいは「コーチングを受けたい」という人は本記事の内容をもとに実践や意志決定で活かしてみてください。

コーチとしてコーチングを提供する人は、自身の提供するコーチングの定義を定めることが大切です。コーチングとはどのようなものか、相手と目線を合わせ、認識を合わせたうえでコーチングを行うことが、お互いにとってより良い成果につながります。

そしてコーチングを受ける側の人は、自身に合ったコーチングなのか見極めることが大切です。
コーチングを受ける際に「あなたの提供するコ―チングは、どのような歴史背景があり、何の理論をもとにしていますか?」「どのような対象に、どんな成果をもたらしますか」とコーチに確認し、自分に合ったコーチを探しましょう。

※当スクールでは、ガルウェイが最も大切なことと提言している「教えすぎないこと」を念頭に、学ぶ人自身が内面に起こる衝動や葛藤を自在にコントロールできる「コーチの在り方」に重点おいています。そして、頭で“わかる”というレベルではなく、実践でスキルやテクニックを“自在に使いこなせる”コーチ自身の成長を支援しています。

エッセンシャルコーチングクラスについて

当スクールのコンテンツは、講師陣が15年以上の月日をかけて実践で成果を出してきた内容を加え、独自プログラムを提供しています。

<手に入る三つの成果>

1.なりたい自分になる方法
自分の内側に発生する感覚を捉え、知覚を言語化していくエクササイズを多数用意しています。クラスで学びあうプロセスを経て、なりたい自分になるための手法を習得してもらいます。

2.継続的な成長を実現する習慣
コーチングを習得する過程を経て、進化し続ける習慣を醸成していきます。7カ月の学習期間は、対面学習だけでなく、オンラインでの振り返り、毎月コンスタントに出される課題に取り組むことで、自身をバージョンアップし続けることが身につきます。

3.継続的な成長を支えるチーム
私たちの学習コミュニティは、関係そのものを変化させることにフォーカスしていくため、協力、共感、協調、協働が自然と育まれます。そのため、共に成長し続けるチーム感が高まります。効果的なチームワークは、個々の能力を超えて目標を達成するための力強い味方となるでしょう。クラス修了しても成長し続ける関わりが手に入ります。

参考書籍

ティモシー・ガルウェイ『インナーワーク』日刊スポーツ新聞社
ルー・タイス『望めば、叶う』(原題 Personal Coach For Results)日経BP 社
T・J・ピーターズ、N・K・オースティン『エクセレント・リーダー』講談社,
ジョセフ・オコナー、アンドレア・ラゲス『コーチングのすべて』英治出版,
西垣悦代・原口佳典・木内敬太編著『コーチング心理学概論』ナカニシヤ出版

執筆:鈴木敦子